東京高等裁判所 昭和48年(ラ)759号 決定
右の事実によると、両裁判官が右テレビ番組に出演したのは本案事件を担当する裁判官として出演したものではなく、すでに昭和三五年以来実施されてきた「法の日」の趣旨を周知徹底させるために行われる第一四回「法の日」週間の広報行事として最高裁判所から通達された(この点は当裁判所に顕著な事実である。昭和四八年八月二七日最高裁広第九八号「第一四回「法の日」週間の広報行事について」高等裁判所長官・地方裁判所長および家庭裁判所長あて広報課長事務取扱依命通達((裁判所時報六二四号一頁所載))参照)ところにより、新潟地方裁判所が行なう司法行政上の広報活動の一環として同裁判所に所属する職員である右裁判官が出演したものであることが明らかである。ところで、忌避の原因である裁判の公正を妨ぐべき事情とは、後記説示のように裁判官がその担当する事件の当事者と特別の関係にあるとか、訴訟手続外においてすでに事件につき一定の判断を形成しているとかの、当該手続以外の要因により、当該裁判官によっては、その事件について公平で客観性のある審判を期待することができない場合をいうのであるから、前記のような経緯のもとに行なわれた両裁判官の出演は、特段の事情のない限り、それにより、右両裁判官が現に担当する本案事件の当事者である新潟放送と特別の関係が形成されるとか、もしくは右事件につき一定の判断を形成するとかというような性質のことがらではなく、特段の事情の認められない本件においては、両裁判官が前記テレビ番組に出演したことをもって裁判の公正を妨ぐべき事情にあたるものとは認められない。他方新潟放送において両裁判官に対しその出演に対する謝礼を支払うことを予定していたとしても、その金額が通常の謝礼として支払われる額のものであれば、その出演に対する対価として社会通念上当然のものであるし、他方これを受領したからといって何ら裁判の公正を妨ぐべき事情があるものとも認められない、抗告人は、中村裁判官が通常の謝礼をうわまわる金額を受け取ったことにつき強く疑念がある旨主張するけれども、この点に関する疏明がないこと前示のとおりであり、この点につき抗告人は、中村裁判官において受領した金額を積極的に明示するか、あるいは同裁判官に対し釈明を求めるべきであると主張するけれども、その主張の金額の金員の受領が忌避の原因である以上、抗告人において疏明を要することがらであり、そのためには抗告人において独自に疏明資料を収集すべきであって、本案事件の口頭弁論期日その他において、その疏明資料を収集し、あるいはそのために釈明を求めることは、何ら本案事件の審理と関係のないことであって、これに応じなかったとしても何ら裁判の公正を妨ぐべき事情があるものとは認められない。原決定の抗告人の指摘する理由説示も、右と同趣旨に解せられることはその判文上明らかであるから、その説示に欠けることはない。したがってこの点に関する抗告人の主張は理由がない。
(久利 井口源 舘)